第6章 帰国してからのこと

bachsheet

結局、日本に帰ってきた私はさらなる大きな宿題をかかえていました。フラメンコのルーツ、本物のフラメンコを探せ、から「真なる音楽、本当の音楽、とは何なのか??」という命題に変わっていました。


両親に2年間の猶予をもらって就職活動も何もせず、音楽の勉強を、勝手気ままに(?)しました。社会的に見れば、ものにならない役立たずの敗北者っぽい姿となっていた私はその世間体とも戦わねばならなりませんでしたが。色んな意味で苦しい独学の日々でした。


このころあらゆる民俗音楽を聴いてそのルーツを調べたり、偉大な作曲家たちの何がすごいのか知ろうとしました。特に心に残ったのはヨハン・セバスチャン・バッハでありました。最初は音だけに気をとられてはいたが、そのうちバッハについて色々と知るようになっていきました。


音楽を大きな視点から見ると歴史的に見ても地理的に見ても、伝統の深いインドのラーガであるとか、ヨーロッパで醸成されたクラシック音楽、ジャズやロックなど今日のコンテンポラリー・ミュージックも、そのルーツを辿ってみれば、やっていることは大差無かったのです。表現語法やスタイルが違うだけで・・・。 私が悟ったのは次のようなことでした。  人は音楽で何をしてきたのか、しているのかというと  「愛の歌を歌う・・・」ということ。


人や、もの、できごと、ときには神のような存在に対しての思いや愛を表す手段として、音楽を。 言葉になっている歌もあれば、旋律だけの歌もある。 即興の要素が優勢なものもあれば、作り込んで芝居のごとく演じるというものもある・・・。  ということに過ぎなかった・・・。


しかしながらこのことに気づけたのはもっと後のことでした。・・・私が音楽において神の存在を意識するようになった後のことでした。


さてバッハに話をもどします。 バッハの大作の一つに受難曲のシリーズがありますが、その中のマタイ受難曲にはまった時期がありました。美しく切ないその音楽に心を奪われて曲の意味するところも知らずに。


また、平均率クラヴィーア曲集というのがありますが24全ての調で書かれた最初の作品ということで感銘を受けたのも事実ですが、曲集の冒頭にバッハ自身が書いたコメントがまた心に突き刺さりました。バッハという人が創作の上で不可欠の要因として意識していたことがあったのです。それが、神の存在でありました。 このバッハという人の場合はプロテスタントの信仰を持っていて宗教改革で有名なマルティン・ルターの著した分厚い本を大事にされていたとか。 そして実に多くの曲を、教会の毎週の礼拝のために書いたのです。そしてオルガニストとしてミサで伴奏もつとめたり・・・。生活の中における必要な、実用的なものとして、音楽を生きていたのがバッハだったと感じています。


このような例は、今でも続いていて、ゴスペル・ミュージックが最たるもの。マービン・ゲイ(MarvinGaye1939~1984)やスティービー・ワンダー(StevieWonder1950~)などのシンガーもやはり教会育ちで聖歌隊で歌っていたという逸話もあります。エルビス・プレスリー(ElvisPresley1935~1977)もでしたっけ・・・。


生活の中の音楽という点ではフラメンコも共通してます。結婚式などの日常生活の様々なイベントでの家族の集まりの際にしていた音楽がフラメンコでした。共通のコンパス(フラメンコでのリズムの単位のこと)のルールにのっとり、歌い手と踊り手、そしてギターとパルマ(手拍子)が自由に戯れる。そんな遊び半分の日ごろの芸ごとが基盤となって今日有名なアーティストが生まれてきた・・・。


さて、バッハは聖書の第○章△節というその数字を作曲に持ち込んで、音符の数や小節の数を決めて作曲した・・・という話はけっこう有名かもしれません。私も初めてその事実を知ったとき「何だこれ?」意味がわからなかった。「何でそこまでするのか?」
それが彼の信仰だったのだと思います。そうやって生まれた聖書物語の音楽ドラマが受難曲だと知って、後になって衝撃を受けました。「この人やばい、宗教か!?」みたいに思ってしまったこともあったのですが、そこに鍵があったようです・・・。


様々な音楽やアーティストを聴いたり読んだり調べたりしていると「ベートーベン(LudwigVanBeethoven1770~1827)もか!」「え、コルトレーン(JhonColtrane1926~1967)も!?」「みんな同じやん!」と叫ぶことがしばしばでありました。 知ってみると同じ道を行っている・・・。というか、人は元来そうなのでしょう。

 

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 第1章:金沢

 第2章:大阪

 第3章:静岡

 第4章:日本

 第5章:スペイン

 第6章:帰国後

 第7章:音楽を超えて

 ミッションステートメント