撥弦・発源・発現 ——IcMFビオトープへようこそ

2026年3月15日、石川県庁の展望ロビー。

1時間の持ち時間に10曲。全体合奏に加えて6つのグループが入れ替わり立ち替わり演奏する。ミキサー3台、スピーカー5個、20チャンネル分のケーブル。音響業者は雇わず、機材もオペレートもすべて自前でした。

終演は15時ちょうど。聴衆に挨拶して片付けに入ろうと時計を見上げたら、ちょうど14:59が15:00に変わるところでした。

そのとき私が感じたのは、興奮でも達成感でもありませんでした。安堵です。

そして顔を上げると、団員たちが誰に促されるでもなく笑っていました。興奮しながら、でも満足そうに。

その光景を見て、初めて息ができた気がしました。


撥弦 ——今のあなたのままで、音を出せる

IcMF-BigBandは「技術的制約フリー楽団」です。楽器も、経験年数も、ジャンルも問いません。

「上手くなったら参加できる」ではなく、「今の自分で参加できる」。どんなパートでも用意します。

条件を付ければ付けるほど、音楽に囲まれる人は少なくなる。逆に「今のままで歓迎される」と分かったとき、人は音楽に居場所を見つけます。

まず、弦を弾いてください。話はそこからです。

発源 ——その音が、この場所を湧き出させる

ここで少しだけ、面倒な話をします。

音楽を聴くことは、今どこでも簡単にできるようになりました。でも「演る人」が増えず、人と音が響き合う場が育たなければ、いつか自分が演奏したいと思ったときに、その場所は残っていません。

場は、誰かが用意してくれるものではないんです。そこで演奏する人たちの手で、少しずつ育つものです。

だからあなたが音を鳴らすこと自体が、すでにこの場所を支えている。そして育った場所が、今度はあなたを育て返します。一方通行ではありません。

発現 ——あなたが、現れてくる

ここに来た人たちは、それぞれ違う形になっていきました。

演奏そのものに打ち込む人。この場の仕組みに関心を持ち、意見をくれる人。仲間を誘って新しいバンドを始める人。参加できるときは必ず来る、という静かな支え方をする人。

私が役割を割り振ったわけではありません。勝手にそうなりました。

あなたがどの形になるかは、私にも分かりません。ただ、どの形になっても、図らずとも、この場所の土を耕すことになる。

そして、あなたが耕した土の上で、私も弾いています。私が場所を用意してあなたが使う、という関係ではありません。土は一つで、その上に全員が立っています。


IcMFとは「Ideal Community with Music as a Family」——家族のように音楽を共にする理想のコミュニティ、という意味です。ビオトープは、生き物が自然に共生する生態系のこと。私が白山市に作ろうとしているのは、音楽の生態系です。

 

私自身は、音楽は「あってもなくてもいいもの」だとは思っていません。目には見えないけれど、空気のようなものだと思っています。最も大切なものに限って、目に見えない。ただ、これは私の考えです。あなたがどう感じるかは、実際に音を出してみてから決めてください。